ご当地グルメ(上) ~再発見型・復刻型・新開発型~

観光

観光旅行の楽しみや目的の一つに訪問した土地ならではの食を堪能するというのがある。平成時代に人気を博した「B1グランプリ」の影響で日本各地のご当地グルメにスポットが当たるようになって、それまで地元の人しか知らなかった普段の食文化が立派な観光コンテンツとして注目されるようになり、ご当地グルメは町おこしの手段としても有効なものになり得ることを立証した。

B1グランプリの発祥は青森県八戸市である。その仕掛け人である八戸の友人Kさんは、八戸で昔から食べられていた「せんべい汁」を全国に知らしめたいと、同じようにメジャーではないけど、地元で昔から食べられていた、その土地ならではの食を紹介したいと頑張っている全国の団体に声をかけ、2006(平成18)年2月に八食センターで第1回B1グランプリを開催したのが始まり。以後、同イベントは全国展開となり年々規模を拡大し開催され、日本各地の多くのご当地グルメを世に送り出した。Kさん曰くKさんは子供の頃はあまりせんべい汁が好きではなかったらしいのだが、ある日、地元の居酒屋で「これは美味い!」と思ったせんべい汁と出会い、これなら八戸を代表する食として全国へ売り込めるんじゃないかとの確信を得て、せんべい汁を全国に知ってもらう仕掛けとして、B1グランプリという手法に辿り着いたのだという。この手法は見せ方、話題づくりの設えを工夫することで、昔からそこにあったものを光らせた好事例である。その手法は、十和田バラ焼きや、黒石つゆ焼きそば等の県内のグルメコンテンツを次々に光らせた。

今や観光には「食」のコンテンツは必要不可欠で、全国各地の観光地は新商品の開発に懸命だ。ひと口に食の開発というが、これがなかなか大変な作業なのである。思いつき、思い込みで商品を開発ししてもヒットするものは少ない。以前B1グランプリの関係者から聞いたのだが、ご当地グルメには大きく分けて、再発見(再認識・再評価)型、復刻型、新開発型の3つの派生パターンがあるという。再発見型は地元では昔から食べられている食文化であるが、実は全国的に珍しいもので、その土地ならではの希少価値があるにもかかわらず、これまで光が当たらなかったものを再発見(再認識・再評価)して商品価値を高める手法。復刻型は現在は消失してしまったが、以前食されていたその土地ならではの伝説の食文化(祖父母の時代に存在し今や懐かしいもの等)を復刻させる手法。新開発型は、これまでになかった新しい発想で新しい食文化を作り出す手法。B1グランプリで人気を博すのが再発見型のグルメとのこと。その土地の人々が昔から食べているという歴史性、物語性があることから地元の人にも馴染みが深く、全国発信にあたっても思いを注入しやすいということも要因なのだろう。次いで復刻型だという。復刻型の事例としてわかりやすいのが「黒石つゆ焼きそば」。昔、地元の中学生が学校帰りに駄菓子屋で焼きそばを食べた時に、寒い冬の日だったので、少しでも温まりたくて熱い出汁をかけてもらって食べたのがきっかけで、一部で流行したという話を祖父母から伝え聞いて、その昔話を元に復刻したというパターン。黒石は焼きそばの麺を作っている製麺所があり、昔から焼きそばを食す文化があるという背景もあり、地元の人に馴染みやすかったものと思われる。意外に苦戦するのが新開発型なのだそうだ。新しいがゆえに作り手、地元の人たちが商品に対して感情注入がしずらく、その土地とつながる何かのストーリーがないと、どこかご当地グルメとしての説得力に欠け、浸透までに時間がかかったり、浸透する前に消えてしまうことが多いそうだ。

もう一つ重要なヒットの要素は、食べてみたいと興味をそそるフック(ひっかかり)だという。せんべい汁を例にあげれば、そのネーミングから初めて名前を耳にする他所の人には「せんべい」+「汁」=?となり、「どんな食べ物なんだろう?」と想像力を刺激する効果があり、いつか機会があったら食べてみたいという好奇心が誘発される。これは「つゆがかかっている焼きそばってどんな味?」と思わせる「黒石つゆ焼きそば」も同様の要素がある。

新開発型のカテゴリーに入るものでも近年は成功事例も増えている。例えば深浦のマグロステーキ丼は、「青森県のマグロ=大間のマグロ」というイメージが定着しているが、実は水揚げ高では深浦町が青森県第1位!という事実を謳い文句に、深浦町産の天然本マグロを刺身丼、片面焼きステーキ丼、両面焼きステーキ丼で楽しむマグロ尽くしどんぶり御膳を開発。商品発表後約2年で10万食を達成し、その経済効果は約5億5千万円。「青森県のマグロは大間が有名だけど、実は深浦が水揚げ高では1番だったんだ」という知的充足感に触れる発見性と、その土地の海で獲れた天然本マグロという地域資源性、そしてマグロをステーキで食べる?という人々がこれまであまり経験したことのない食べ方が一つのフックとなったのではないかと思われる。

このようにご当地グルメの中でもヒットするもの、飛距離が伸びているものに共通しているのは「その土地ならでは(地域関連性)」「地元の人たちが知っている(誇りとしている)」「何か刺さるものがある」という部分。しかし、それらの条件をすべて満たすのは難しく、また満たしているからといって、それだけでは必ずしも上手く行くとは限らないし、すぐには効果が出なかったりする。

(つづく)

タイトルとURLをコピーしました