アナザースカイ~学都弘前

雑感

先日、函館の友人から「D君、見ない日がないくらい、今や北海道のお茶の間の顔になっているよ」と嬉しい情報をもらった。

D君は数年前まで弘前大学で学んだ北海道出身の若者だ。彼は学生時代から弘大のラジオサークルに所属し、在学中もパーソナリティーや、地域の司会のバイト等で腕?声?を磨き、卒業後郷里のHBC北海道放送にアナウンサーとして入社した。D君は当時私が主宰する路地裏探偵団の大学生チーム〈路地裏探偵団Z〉にも所属し、学生まちあるきガイドとしても活躍し、弘前を楽しみ、弘前に溶け込んだ。

大学時代、弘前で学んだ若者が全国で活躍しているのは嬉しいことだ。D君と一緒に路地裏探偵団ZのメンバーだったSさんも今は大手広告代理店に勤務し、仕事で出会った多くの人たちに、自分が学生時代を過ごした弘前のPRを積極的にしてくれているようで、Sさんから弘前旅行を勧められたというお客さんが訪れることもしばしば。こんなかんじで、学生時代に弘前の大学で学んだ人たちを介して交流人口が広がっていくケースもある。

そういえば、2019年の桜の季節に登場し、弘前さくらまつりに全国から多くの若い観光客を動員した〈桜ミク〉の企画を持ち込んだのも弘前大学卒業生。世界的にファンを持つ初音ミクのプロダクション〈クリプトン・フューチャー・メディア社〉のS氏は大学時代を弘前で過ごし、弘前の桜を見て感動、初音ミクからの派生キャラクター制作時に、弘前とのコラボを思いついたという。個人的な話になるが、前職時代、札幌へ誘致活動に行った際、某ツーリスト会社の新人の女性社員に弘前のプレゼンをしたら、その人のお父さんが弘前大学出身で、小さいころからお父さんの学生時代の話を聞かされて育ったらしく「うちの父、弘前の桜の話ばかりするんです」と、それが縁となってぜひ一緒に商品を作りましょうと商談がとんとん拍子に進んだことがあった。

弘前の大学の卒業生の中には大学進学で弘前にやってきて、弘前を好きになり、弘前に居ついて、永住を決意した人たちも大勢いる。この街の命と健康を守る使命感に燃える人、弘前の音楽の灯を絶やすまいとライブハウス経営に挑む人、アートで弘前を盛り上げようと頑張っている人、街づくり、地域づくりに関わって行こうとする人… 本当感謝だ。

いつの時代も弘前で大学時代を過ごした多くの方々が「弘前」に対して今もいい思い出を抱いていてくれて、卒業後もそれぞれの居場所から弘前を応援してくれることは有難い。昔から「学都弘前」を標榜してきた弘前市民にとって、これは冥利に尽きる。

2009年度に弘前大学が実施した調査によれば、弘前大学が弘前市にもたらす経済波及効果は年間367億円。市内総生産額に相当する額は207億円で、弘前市内総生産額の3.8%にあたる。その経済波及効果で、市内に約2千500人の雇用が誘発され、教職員約3千50人と合わせると市内の就業者全体の6.0%に相当するという。直近のデータでないので、データに変動はあるが、弘前大学1校で、弘前市には年間でこれくらいの経済効果がもたらされている。人口17万人の弘前市に弘前大学を含め高等教育機関が5大学設置されていることが弘前が学都と言われる所以であり、そのことによる恩恵は非常に大きい。「大学と直接取引がない」「身近に学生がいない」と大学に縁がないと思いがちな市民も、経済は回っているものなので、間接的になんらかの形でこの恩恵に与っている。

昨年、今年と他県から弘前の大学に入学した学生は、コロナの影響を受け、授業はオンライン、サークル活動も停止、アルバイトもない、学校に行く機会が少ないので友達も出来ない、自粛によりでかけることができず弘前の街を知らない。

県をまたげず、夏休みに実家に帰りたくても帰れない、そういった学生に弘前を知ってもらおうと、8月に学生の住むアパート経営に携わっている不動産会社と一緒に試験的に弘前街歩きミニツアーを実施した。もちろん、離れていても音声が聴こえるワイヤレスシステム等を使いソーシャルディスタンスを保つ様々な工夫を施しての実施。参加した学生たちは、ほぼ初めて歩く弘前の街並や、れんが倉庫美術館に展示されていたねぷたに感動。つかの間不便な日常を忘れ楽しそうに写メを撮りまくっていた。

自分もこの間まで関東の大学に通う息子がいたので、親元を離れて暮らすお子さんを案ずる親御さんの気持ちはよくわかる。うちの息子はコロナにより大学の卒業式が中止となった。ちょうどコロナが発生し急激に猛威をふるい始めた初動のタイミングであったのでドタバタと急な中止。そんな中、大学側が最寄りの駅の壁面に掲示したメッセージに親としても胸が熱くなった。

卒業式はできなかったけど、

〇〇大学の学生であったことは

永遠に変わりなく、

仲間であり続けることも永遠です。

おめでとう。

そして、ありがとう。

卒業式が中止になり弘前にいた息子は学友から送られてきたその写メを見て「さすが!わの母校。この大学さ行って本当いがった!」と意気に感じ、今もコロナが収まったら学生時代暮らした街に「里帰り」したいと、その日が来るのを心待ちにしている。ドタバタの中でのこのささやかな心配りは、息子の心の中でずっと生き続けると思った。おそらく彼はこれから幾度となく人生に影響を与えてくれたアナザースカイに思いを馳せ、時に足を運ぶだろう。学都弘前も学生にとって、そんな器宇のある街でありたい。

せっかく弘前で暮らす貴重な大学時代、その貴重な時間の1年半がコロナによりもったいないことになっている。コロナの猛威が落ち着いたら、ささやかながらも自分の得意な街歩きツアー等で、この空虚な時間を埋めるための「弘前を知る」「思い出をつくる」お手伝いをしたいと思う。

タイトルとURLをコピーしました