洋館は非日常を味わう空間

MISSION

おかげさまで、ご心配をおかけしておりました足の故障も先日病院でレントゲンを撮ったら8割まで回復しているということで、完治までもう少しです。怪我をしてから数カ月間ライフワークの一つである路地裏街歩きガイドは、多くの仲間が手分けして担ってくれました。本当感謝でいっぱいです。

さて今日は先週視察にうかがった埼玉県入間市の西洋館について書きたいと思います。

埼玉県入間市の旧石川組製糸西洋館は、大正から昭和の初めにかけて全国有数の製糸会社であった石川組製糸により外国商人を招くための迎賓館として、約100年前に建てられた洋風木造建築物で、入間市では平成29年度に屋根等の改修を行い、平成30年7月から一般公開を開始。建物の公開以外にも西洋館の特色を生かしたイベントや、撮影への貸出を行っている。 今回、弘前市にある多くの洋風建築物の活用と、今後に控えている青森銀行記念館の保存活用整備の参考にすることを目的に視察させていただいたのだが、いろいろと参考になる点が多かった。

旧石川組製糸西洋館は弘前で言えば、藤田記念庭園の洋館に近いイメージで、贅を尽くした貴重な照明器具や家具等も当時のまま展示されている。建物は、国登録有形文化財に指定されているが、先立つ財源がなく、思うような修繕ができないことが課題であるとのことだった。公開についても毎日開館するのではなく、観光客の多い土・日を中心に効率良く公開している。注目するべき点は、映画、テレビドラマ、CM、プロモーションビデオ、ファッション雑誌の撮影場所として人気が高く、撮影場所としての貸出収入が年間650万円で、西洋館の運営に関する平成30年度の収支を拝見すると歳出の合計が620万円であり、ほぼ、撮影場所としての貸出料だけで運営費を賄えていることであった。地方では、フィルムコミッションを通じて映画やテレビドラマのロケを誘致し、シティセールスの一環として撮影場所の使用料を免除しながら、ロケ隊の滞在にかかる宿泊費、ロケ弁当代等の費用を地域で消費していただく形で経済効果を上げていることが通例の中、撮影場所の貸出料収入を財源に運営を賄っていることはちょっとした驚きであった。こういう運営の手法もあるんですな。都心に近く、撮影の制約が少ない洋風のロケ―ションは、総合的に見れば多少使用料がかかっても経費面でリーズナブルであることが重宝されている理由であろう。期せずして首都圏と地方のロケ地選定の考え方の違いを比較することができ、今後の当地弘前の洋館を活用したロケ誘致戦略の参考となった。この西洋館はこれまで様々なロケを行っていて、テレビドラマの「家政婦は見た」や、ラルクアンシェルのプロモーションビデオ等のロケ地にもなっており、ラルクのファンが聖地巡礼で訪れたりする効果もあるそうだ。当日も関東圏からどこかの婦人会が団体で見学して賑わっていた。潤沢な運営費がないことから他にも経費をかけず集客を図るイベントの実施等、随所に工夫が施されており、「その手があったか!面白いかも!」という取組みもあり、弘前市の様々な洋館でも取り入れることができそうなヒントが多かった。 例えば、財源が足りず整備しきれなかった部屋の天井をぶち抜き、屋根の内部構造をわざと見せ、当時の建築技法を紹介する逆転の発想的な工夫があったり、近年人気の「ぬい撮り」の借景にしませんか?と積極的にPRをしたり。知らない人もいると思うので「ぬい撮り」について説明すると、様々な場所で、ぬいぐるみの写真を撮ることで、インスタ映えが流行語になった2017年頃からブームになっている。実はこの撮影場所に洋館が人気のスポットになっているのである。 「ぬい撮り」については、実は弘前でも藤田記念庭園で以前から自然発生的におこなわれるようになり、今ではけっこう日常茶飯事らしい。藤田記念庭園のカフェにマスコットや人形を持ち込み、瀟洒な洋室を借景にお茶をしながら思い思いに写真を撮って楽しんでいる女子が多いのだそうだ。また、コスプレ愛好者のグループが、藤田記念庭園の洋館の貸室を借り切って撮影会をしていることもよくあるらしい。このように最近は若い世代の間からも洋館の面白い使い方、楽しみ方が生まれている。コスプレではないが、ウエディングの撮影での利用も増えており、藤田記念庭園は、洋館のみならず、和館、煉瓦造りの匠館、日本庭園と借景の宝庫であることから、写真撮影の舞台に適している。洋館は観光資源でもあるが、市民が普段使いで楽しむ場所でもあると思う。

古い洋風の建物の魅力は、空間が非日常であることだと思う。明治・大正期にタイムスリップした錯覚や、異国の地にいるような錯覚を味わうこと。写真の借景にして楽しむこと。日本人の匠が空想を膨らまして洋風な建物を創った建築思想、哲学、技、そして建物が造られた歴史的背景に思いを馳せること…

個人的に思うことは、弘前の洋館の外観はみな個性的なのだが、内装は一見しただけでは、どれも似たような「洋風テイスト」にしか見えないことが多く、ひじょうにもったいない。実はそれぞれの洋館の内装の装飾には面白い個性があるのだが、解説がないとその魅力をなかなか伝えきれない。弘前の洋館をもっと活用するにはこのへんが鍵なのではないだろうか…

弘前にはせっかくたくさんの洋館があるのだから、それぞれの建物の歴史的背景や、展示内容、わかりやすい解説、楽しい企画等、それぞれの建物の個性を活かして、「固有」の価値・魅力をハッキリさせればもっと面白くなる。やはりそのためには柔軟な「発想」と「工夫」が必要だ。

弘前の洋館はまだまだもっと化ける可能性がたくさんある。

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